被災した家を、この後どうすればいいのか

石川県で工務店をしている私が、熊本の方へお伝えしたいこと

熊本県で最大震度7の地震が発生しました。被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

私は2024年1月1日、能登半島地震を経験しました。

その後、多くの被災したお宅を実際に見て回りました。

あの揺れが収まったあと、何から手をつければいいのか分からないまま時間だけが過ぎていく。あの感覚を、私も覚えています。

だからこそ、順番だけでもお伝えしたい。


1. まず、片付ける前に写真を撮ってください

これが、能登でいちばん多く聞いた後悔でした。「もっと撮っておけばよかった」と。

スマホで構いません。撮っていただきたいのは次の通りです。

  • 家の四面(外から家全体が1枚に収まるように、壁のある方向すべてから)
  • 壊れている箇所のアップ(基礎・外壁・屋根。屋根は撮れる範囲で)
  • 少し離れて撮った写真(被害箇所の位置関係が分かるように)
  • 室内の被害
  • 床上浸水があれば、水の跡の高さ
  • 車、家財、物置、カーポート、塀なども、全景と被害箇所の両方

なぜ必要なのか

写真は、このあと出てくるすべての手続きの根拠になります。

  • 罹災証明書の被害認定調査
  • 保険の査定
  • 判定に納得できなかったときの再調査

片付けてしまうと、「元がどうだったか」を示す手段がなくなります。散らかった家をそのままにしておくのはつらいものですが、撮ってからにしてください。

そして――撮ってさえあれば、あとは急がなくて大丈夫です。


2. 「弱った人につけ込む業者」が必ず来ます

災害のあと、これは必ず起こります。能登でも、東日本大震災でも、熊本地震でも起きました。

こういう相手には気をつけてください

  • 突然訪ねてきて「今すぐ契約を」と急かす
  • 「火災保険を使えば自己負担ゼロで直せます」と言う
  • 見積書を出さない。その場でサインを求める
  • 勝手に屋根に上がり「危ないですよ」と写真を見せてくる
  • 「国から要請された」「行政から来た」と名乗る

急かされたら、それだけで断る理由になります。 まともな業者は急かしません。

ブルーシートには特に注意してください

能登で実際にあった手口です。

屋根瓦が落ちた家の前に、ブルーシートが置いてある。行政からの配布だと思って屋根に使うと、後から高額な請求が来る。

報道によれば、七尾市では地震発生の2日後に業者を名乗る男の訪問を受けた方が、設置の相場が高くても5〜6万円のところ12万円を請求された事例が伝えられています。警察庁には、石川県内でこうした相談が計44件寄せられました。

富山県内の自治体も、「屋根瓦がずれている」と告げて勝手に屋根に上がる業者(屋根修理詐欺)と、「国から要請された」と称して物品を高額で販売する業者(ブルーシート詐欺)について注意喚起を出していました。

覚えておいてほしいのは2つです。

  1. 行政の支援物資は、玄関先に無言で置かれません。 必ず避難所か市町村の窓口を通ります。
  2. 誰が持ってきたか分からないものは、使わない。 使う前に、避難所の運営か市町村に「これは配布ですか」と一言確認してください。

もし請求が来てしまったら、その場で払わないでください。 消費者ホットライン 188 に相談してください。


3. 屋根には登らないでください

ブルーシート掛けの転落事故が、災害のたびに本当に多い。

しかも被災直後は瓦がずれていて、見た目より足元が崩れます。慣れている職人でも危ない状態です。

自治体、災害ボランティア、地元の業者が対応してくれます。「自分でやったほうが早い」が、いちばん危ないです。

暑い時期です。片付けは朝と夕方だけにして、水分と塩分は喉が渇く前に。家のことより、まずご自身の体を優先してください。


4. 「赤紙」と「罹災証明書」は別のものです

ここは能登でも本当に混乱しました。

応急危険度判定(赤紙・黄紙・緑紙)

家に貼られる紙です。いま、その建物に入って安全かどうかの判定です。

  • :危険。立ち入らないでください
  • :要注意
  • :調査済み(当面の使用可)

これは安全のための判定であり、支援金や保険の手続きには使いません。

罹災証明書

市町村に申請して、職員が現地調査を行い、住まいの被害の程度を証明するものです。

被害の程度は、全壊/大規模半壊/中規模半壊/半壊/準半壊/準半壊に至らない(一部損壊)に区分されます。

これが、被災者生活再建支援金、公費解体、税や保険料の減免といった支援の入口になります。

赤紙を貼られた=全壊認定、ではありません。 まったく別の制度です。赤紙が貼られていても、罹災証明書は自分で申請しないと出ません。


5. 「罹災証明書」と「被災証明書」も別のものです

名前が似ていますが、対象が違います。自治体によって「り災届出証明書」「被災届出証明書」など呼び方も変わります。

罹災証明書被災証明書(り災届出証明書)
対象住まい(住家)住まい以外:車、家財、物置、倉庫、納屋、雨樋、カーポート、塀、店舗の商品など
内容被害の程度を認定(全壊〜一部損壊)被災した事実の届出を証明
程度の判定ありなし
現地調査あり原則なし(写真の提出が必須)

車と家財は、罹災証明書では出ません。 ここが実際にいちばん取りこぼされるところです。

必要な書類は被害の内容によって変わり、運用も自治体ごとに違います。窓口で「うちの被害だと、どちらが必要ですか」と聞くのが確実です。

なお、被災証明書の申請には写真の添付が必須とされている自治体が多くあります。ここでも1章の写真が効いてきます。


6. その後の順番

① 市町村に罹災証明書を申請する

支援金、公費解体、税や保険料の減免に必要になります。

自治体によっては、軽微な被害について自己判定方式(現地調査を省略し、写真の提出と「一部損壊」への同意で早く交付する方式)を用意している場合があります。急いで必要なときは窓口で確認してみてください。

② 判定に納得できなければ、再調査を申請できる

正直にお伝えします。罹災証明書の判定は、人が見て決めます。

基準は国(内閣府の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」)が定めていますが、調査するのは人です。能登では、似たような壊れ方の家で違う判定が出ることが実際にありました。

「うちだけおかしいのでは」と思ったら、その感覚は正しいかもしれません。

一次調査は外観目視です。二次調査(再調査)は、申請者立ち会いのうえで建物の中に立ち入って行われます。見てもらえる情報量が違います。

床の傾き、建具の建て付けの狂い、基礎の内側――外から見えない被害に心当たりがあるなら、申請する価値があります。

ただし注意点が2つ。

  • 期限があります。 能登では「罹災証明書の交付を受けた日から3か月以内」としていた自治体がありました。お住まいの自治体の告知を確認してください
  • 判定が下がる場合もあります。 そう明記している自治体もあります

時間はかかります。変わらないこともあります。それでも、申請しなければゼロのままです。

③ 保険会社に連絡する

火災保険・地震保険の請求です。罹災証明書の判定とは別の調査が行われます。

④ 修理か解体かは、まだ決めなくていい

ここが一番大事です。

能登では、倒壊家屋の解体・撤去が最終的に全額公費で行われることになりました。ただ、制度が固まるまでには時間がかかりました。その前に自費で解体してしまった方や、直せたはずの家を解体してしまった方もいます。

急かされる場面が来ても、判断を保留していい。 これだけは覚えておいてください。


7. 保険会社の査定の前に、家を建てた会社に見てもらう

これは、実際に被災された方から教えていただいた話です。

震災後、真っ先に保険会社から「査定に伺います」と連絡が来た。それを一度待ってもらい、先に建ててもらった工務店に建物を見てもらって、修理の詳細な見積書を作ってもらった。その後で保険会社に来てもらったところ、案の定、見積書より低い査定が出た。しかし詳細な見積書を示したところ、査定がすべて見直された――というお話でした。

私も同じ順番をおすすめします。ただ、工務店の人間が言うと我田引水に聞こえかねないので、2点はっきり書いておきます。

ここで言う「先に見てもらう相手」は、飛び込み業者ではありません

その家を建てた会社、あるいは以前から付き合いのある地元の業者のことです。

突然訪ねてきて「保険金の請求をお手伝いします」と言う業者は、まったく別の話です。2章で書いた注意対象そのものです。ここは必ず分けて考えてください。

地震保険は「見積書の金額がそのまま出る」仕組みではありません

期待を持たせすぎないよう、正確に書きます。

地震保険の支払いは、全損・大半損・小半損・一部損の4区分で決まります(2017年1月以降の契約)。建物の基礎・屋根・外壁などの主要構造部の損害割合を合算して認定する仕組みです。

たとえば主要構造部の損害割合が3%以上20%未満なら「一部損」で、支払われるのは地震保険金額の5%。全損でも、地震保険金額は火災保険金額の30〜50%の範囲で設定されるため、受け取れる額には上限があります。

つまり、詳細な見積書は「支払額を直接決めるもの」ではなく、損害割合をきちんと見てもらうための材料です。それでも意味は十分に大きい。外から見えない損傷を見落とされないためです。

一方、風災や水災など火災保険の支払いは、実際の修理費ベースです。こちらでは見積書がそのまま金額に直結します。

査定結果に納得できない場合は、保険会社への再調査依頼、あるいは「そんぽADRセンター」への相談という道があります。


8. 空き家と、置いていったものを狙われます

書きたくないことですが、事実なのでお伝えします。

能登では、被災して避難した家を狙った窃盗が相次ぎました。石川県内では被災した寺院や空き家から仏具などの金属類が繰り返し盗まれ、被害総額は3千万円を超えると報じられています。

能登は浄土真宗の信仰が篤い土地で、金箔を施した立派な仏具のあるお宅が多くありました。それが「金属」として狙われた。ご先祖に申し訳ないと涙をこぼされた方の言葉が、今も忘れられません。

避難する際、貴重品と大切なものはできるだけ持ち出してください。持ち出せないものは、写真を撮っておいてください。

また、自衛官や公務員を装って家に入ろうとする者が確認された例もあります。身分証の提示を求めて構いません。


9. 相談先のまとめ

困っていること相談先
住まいの被害の程度を証明したいお住まいの市町村(罹災証明書)
車・家財・物置などの被害お住まいの市町村(被災証明書/り災届出証明書)
判定に納得できない市町村(再調査・二次調査の申請。期限あり
修理や解体の相談建ててくれた会社/地元の工務店/市町村の窓口
保険の請求契約している保険会社
保険の査定に納得できない保険会社への再調査依頼/そんぽADRセンター
悪質業者かもしれない消費者ホットライン 188
契約してしまった消費者ホットライン 188(クーリング・オフの可否を相談)

最後に

能登のとき、遠くから気にかけてもらえることが、思っていた以上に力になりました。

家のことは、急がなくて大丈夫です。修理も解体も、いま決めなくていい。

まずは写真を撮る。そして、ご自身の体を大事にしてください。

一日でも早く、落ち着いた日常が戻りますように。


※この記事は、2024年能登半島地震での経験と、その後にお寄せいただいた被災経験者の方々の声をもとにまとめたものです。制度の運用は自治体ごとに異なり、また変更される場合があります。実際の手続きは、必ずお住まいの市町村の告知をご確認ください。

※転載・共有はご自由にどうぞ。必要とされている方に届くことを願っています。